

お風呂で温まった体に、バスタオルをそっと押し当てる。体に残った水滴がすうっと布へ移っていくのを感じ取れます。
愛媛県今治市で生産される今治タオルは、こうした吸水性を感触だけでなく、数値化された品質基準で明確化しています。吸水性がどのように確認されているのか。厚手と薄手では何が違うのか。毎日の手入れはどうすればよいのか。そうした点を知ると、「柔らかい高級タオル」というイメージだけでは見えにくかった、今治のタオルづくりが少し具体的に見えてきます。
今治タオルは、今治市とその周辺地域で生産されるタオルのなかでも地域団体商標として管理されている「今治タオルブランド認定商品」です。四国タオル工業組合が定める品質基準を満たし、認定を受けた製品だけがブランドマークを使用できます。
認定基準の中でもよく知られているのが、「5秒ルール」と呼ばれる吸水性の試験です。小さく切ったタオル生地を水に浮かべ、5秒以内に沈み始めるかを確認します。さらに、洗濯していない状態だけでなく、3回洗濯した後の生地も基準を満たす必要があります。
主原料となる綿は、超長綿、無撚糸、オーガニックコットンなど製品ごとに異なり、麻などとの混紡もあります。パイルの長さや密度、糸の撚り、織り方によっても、厚み、重さ、触感、乾きやすさは変わります。
今治のタオル産業の背景には、江戸時代から続いてきた綿織物の生産があります。
今治周辺では「伊予木綿」と呼ばれる綿織物が作られており、紡績や製織の技術が地域に蓄積されていました。ただし、現在のタオル産業がそのまま江戸時代から続いているわけではありません。
今治でタオル生産が始まったのは、明治27年(1894年)とされています。阿部平助が綿ネル用の織機を改造し、タオルづくりに着手しました。
その後、明治43年(1910年)にはジャカード織機が導入・改良されます。これによって織り組織や色糸を使って柄を表す「紋織タオル」の生産が広がり、今治は無地だけでなく、複雑な柄を織り出す技術を持つ産地へ発展しました。
昭和期から高度経済成長期にかけては贈答用の柄入りタオルなどの需要が拡大し、今治は国内有数のタオル産地へ成長します。しかし、1990年代から2000年代初頭には、海外から安価なタオルの輸入が増え、産地は大きな転換を迫られました。生産量もピーク時から大きく減少します。
そこで2006年、JAPAN BRAND育成事業をきっかけに、今治タオルのブランド再構築が始まりました。クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を迎え、品質基準やブランドマークを明確にし、産地名だけではなく、一定の品質を確認できるブランドとして認知を広げていきます。
現在の今治タオルを理解するうえで重要なのは、この歴史が単なるブランド刷新ではなかったことです。明治以来の織物産業、ジャカードをはじめとする製織技術、地域の水環境、そして品質を明確な基準で示す仕組みが結びつき、現在の産地像が形づくられていったのです。

今治タオルのもっとも明確な共通点は、ブランド認定商品に設けられた吸水性の基準です。さらには糸、パイル、織り方、厚みなどの違いによって、製品ごとに異なる使い心地が生まれます。
タオルは製造時の仕上げによって最初の触感が変わることがあります。吸水性を確認する「5秒ルール」では、洗濯によってそうした表面処理が落ちた後でも基準を満たす吸水性があるかを確認することで、繰り返し使う生活用品としての機能を評価しているのです。
今治タオルの高い吸水性を支えてきた要素の一つが、高縄山系を水源とする蒼社川などの軟水です。この地域の水はカルシウムやマグネシウムなどの成分が少なく、晒しや染色の工程で使われてきました。糸や生地から油脂分や不純物を取り除く際、繊維への負担を抑えやすい水質とされています。
今治では、織る前の糸を晒し、必要に応じて染色する「先晒し・先染め」が伝統的に得意とされてきました。糸の段階で不純物を取り除いたうえで織ることは、吸水性や発色を支える要素の一つです。
今治タオルの吸水性は軟水だけで成り立っているわけではありません。
一般的なタオルの表面には、吸水性とクッション性を生む「パイル」と呼ばれるループ状の糸があります。今治タオルは、このパイルの長さや密度を調整することで、厚みや弾力、表面の触感に違いを生み出しています。高密度で長めのパイルを使った製品は厚みと弾力を感じやすく、薄手のパイルやガーゼを組み合わせた製品は、かさばりにくく乾きやすさを重視した用途にも使われます。
タオルの触感は、使われる綿糸によっても変わります。無撚糸は通常の糸のように強く撚りをかけず、綿繊維をふくらませた状態で使う糸です。柔らかな触感をつくりやすい一方で、撚りのある糸より毛羽が出やすい傾向があります。反対に、撚りをかけた糸や高密度のパイルでは、適度な張りや弾力のある表面を作ることができます。
タオルを選ぶときには厚み、パイル、糸、重さ、乾きやすさといった違いを見ると、自分の好みに合う一枚を考える手がかりになります。
今治タオルは製品によって糸や織り方は異なりますが、吸水性や触感を支えているのは完成品からは見えにくい各工程での調整です。
1. 糸を選び、撚りを調整する
柔軟性重視、耐久性重視など、用途に合わせて綿糸の種類や撚り方を選ぶ。撚りの少ない糸は柔らかな触感をつくりやすい一方、毛羽が出やすい傾向があるため、糸の性質に合わせて織機の張力なども調整する。
2. 糸を晒し、染める
今治周辺の軟水を使って綿に含まれる油脂分や不純物を洗い落とす。
また、糸の段階で色を付けることで、ジャカード織りなどを使った柄の表現も可能となる。
3. 整経し、糊をつける
織機へ掛ける多数の経糸を順番にそろえ、一定の張力でビームに巻き取る「整経」を行う。織っている最中に糸が擦れて切れるのを防ぐため、経糸には一時的に糊をつけることがある。
4. タオルを織る
ジャカード織機やドビー織機などを使い、地組織をつくる糸と表面のループをつくるパイル糸を調整しながら織り上げる。ジャカード織機では、色糸や織り組織を組み合わせることで、複雑な柄を生地そのものに織り込むこともできる。
5. 糊や不純物を洗い落とす
製織時に使った糊を軟水で洗い落とし、タオル本来の吸水性を引き出す。
6. 縫製し、品質を確認する
生地を製品サイズに裁断し、端を縫製する。ブランド認定を受ける製品は、吸水性をはじめとする四国タオル工業組合の品質基準に沿って検査が行われる。
今治タオルは、糸の撚り方、表面構造、織り方によって厚み、柔らかさ、乾きやすさなどが変わります。バスタオルやフェイスタオルなどの吸水性を重視するものから、速乾性重視のキッチンクロス、肌触りのいいベビー用品まで、用途に合わせてさまざまなタオルが作られています。