

表地と裏地のあいだに綿を入れ、寒い時期に羽織る。久留米綿入はんてんは、福岡県南部の筑後地域でつくられてきた防寒衣です。
その特徴を形づくるのは、中綿の厚みだけではありません。二人一組で綿を均一に入れる「綿入れ」と、綿が偏らないように要所を手で縫い留める「とじり」。着る人の体を包む構造のなかに、地域で受け継がれてきた手仕事があります。
綿入りはんてんは江戸時代から庶民の冬着として用いられてきました。
筑後地域の織物業者が本格的に綿入りはんてんを生産するようになったのは、1947年頃とされています。地域に蓄積されていた織物や縫製の技術を背景に、家庭で着る冬の衣服として生産が続けられてきました。
昭和60年代には年間約300万枚が生産されたといわれています。綿入はんてんは、限られた場で鑑賞される工芸品ではなく、各地の家庭で着られる冬の衣服として、この地域の生産を支えてきました。
その後、フリースなど新しい防寒着の普及によってはんてんを見かける機会は少なくなりました。しかし、2020年代に入ると家で過ごす時間が増えたことや、気軽に羽織れる室内着としての実用性が見直され、再び注目を集めるようになります。昔ながらの形を生かしながら、素材や色柄、袖の形を現代の暮らしに合わせたものもつくられています。
2025年12月、久留米綿入はんてんは福岡県知事指定特産工芸品となりました。

久留米綿入はんてんには、縫い合わせた表地と裏地の間に綿を入れる「綿入れ」という工程があります。左右から二人が同時に作業し、中綿が均一になるように入れていきます。綿の量だけでなく、どの部分へどのように行き渡らせるかが仕上がりを左右します。
また、もう一つの特徴が「とじり」と呼ばれる工程。内側にむらなく入れられた綿が、着用中に偏らないよう留める工程です。中綿を一か所に固めず身頃や袖に行き渡らせることで体を広く包み、保温性を高めます。
現在つくられている綿入はんてんには、袖や丈の異なるものがあります。呼び方や寸法は製造者によって異なり、地域全体で統一された分類ではありません。また、一部のメーカーでは現代の用途に合わせて、袖のないポンチョ型や五分袖の綿入はんてんなどをつくっているところもあります。
長袖
腕まで覆う一般的な形。寒い時期に室内で過ごすときなど、広い範囲を包む形として用いられます。
やっこ
一般的な長袖より袖が短い形。腕まわりの布が作業の邪魔になりにくいため、家事や手仕事をするときの選択肢になります。
1.生地を用意し、裁断する
表地と裏地を用意し、それぞれの型に合わせて裁断する。使用する生地は商品によって異なる。
2.表地と裏地を縫製する
裁断した布を縫い合わせ、身頃や袖などの形をつくる。後の工程で中綿を入れられるよう、表地と裏地を組み合わせて仕立てる。
3.二人一組で中綿を入れる
縫製した表地と裏地のあいだへ中綿を入れる。左右から二人で作業し、綿が偏らないように全体へ行き渡らせる。製造者によっては着用時の状態を考えながら、裾など特定の部分に綿を補う。こうした細部の調整は各事業者が蓄積してきた製作技術の一部。
4.「とじり」で中綿を留める
中綿を入れた後、着用中に綿が偏らないよう、要所を手で縫い留める。製造者の一例として、宮田織物では中綿のふくらみをつぶさず、同時に必要な強度を保てるよう、綿の入り具合や力のかかる場所を見ながら針目を調整している。外からは目立ちにくい工程だが、内側の綿を安定させるための重要な手仕事。
5.仕上げと検品を行う
糸始末や形の確認などを行い、製品として仕上げる。
久留米綿入りはんてんは、素材や中綿、袖の形によって、適した使い方が変わります。朝晩の冷え、座って過ごす仕事の時間、家事をする時間。どの場面で羽織るかを考えると、生地の張りだけでなく、袖丈や中綿量といった衣服としての違いにも目が向きます。