

和紙で覆われた照明を灯すと、紙を通して柔らかい光が広がり、ほんのりとした温かみのある明るさが浮かび上がります。
八女和紙は、福岡県八女市を中心とする地域で受け継がれてきた和紙です。楮の長い繊維を生かした伝統的な手法による手漉きの紙は、竹骨に紙を張る八女提灯をはじめ、障子や表具など紙に一定の強さが求められる用途に使われてきました。
現在ではパルプなどを配合した機械抄きや混抄の和紙も流通しており、ペンダントライトやランプシェード、インテリアパネルなど、現代の住空間で光を扱う素材として製品の幅を広げています。
八女地域で紙漉きが始まった時期については、複数の説が伝わっています。
室町時代の応永年間(1394〜1428年頃)に僧によって製法が伝えられたとする説がある一方、江戸時代初期、およそ400年前に本格的な紙づくりが始まったとする説もあります。
紙づくりがこの地域に根づいた背景には、筑後川・矢部川水系の豊かな水資源と、楮の栽培にも適した地域環境がありました。和紙づくりは原料を水に浸して不純物を取り除き、繊維を水中に分散させながら紙を漉くため、水は重要な役割を担います。
江戸時代には柳川藩や久留米藩の保護のもと、障子紙や表具紙などの生産が広がりました。さらに地域で八女提灯の生産が発展すると、竹骨に張るための薄さと張力に耐える強さを備えた紙が求められるようになります。
八女和紙と八女提灯は別の工芸ですが、同じ地域で紙をつくる側と、その紙を使って提灯をつくる側が互いの産業を支えてきました。提灯用紙への需要は、楮の長い繊維を生かす紙づくりが受け継がれていく背景の一つとなりました。
明治から大正期(1868〜1926年)にかけて、八女地域は九州を代表する紙産地として発展します。一方、昭和以降(1926年〜)は洋紙の普及や生活様式の変化に伴って手漉き紙の需要が減り、職人や工房の数も減少していきました。
それでも紙づくりの技術は途絶えず、現在では伝統的な障子や表具、提灯に加え、照明やインテリアなど新しい用途にも展開されています。用途が変化しながらも、紙そのものの性質を生かすものづくりが続いているのです。

八女和紙の特徴としてよく挙げられるのが、楮の長い繊維を生かした紙の強度と紙を通したときの光の見え方です。
伝統的な八女和紙は、主な原料である楮の繊維を細かく切断するのではなく、叩いて解きほぐしながら長さを生かして紙がつくられます。漉き上げた紙の中ではそれらの繊維が重なり合います。この構造が、紙を引っ張ったときの強さにつながります。
提灯は組んだ竹骨の表面へ紙を張るため、薄さだけでなく張る工程に耐えられる強さも求められます。そのため、楮の長い繊維を生かした八女和紙は提灯用の紙として重宝されてきました。この強度は単に手漉きだから丈夫ということではなく、原料となる楮の繊維と、それをできるだけ長く保ちながら紙にする技術の組み合わせによって生まれます。
薄手の八女和紙を光にかざすと、紙の中に重なる楮の繊維が見えます。
照明のシェードとして使うと、光源からの光が紙を通ることで和らいで見えるのが特徴です。この性質は、外からの光を室内へ通しながら視線を遮る役割を担う障子にも生かされてきました。
紙漉きの工程は、ほぐした楮の繊維を水に入れ、トロロアオイなどから得られる「ねり」と呼ばれる粘液を加えます。ねりには水中で繊維がすぐに沈んだり固まったりするのを抑え、均一に分散させやすくする働きがあります。職人はその状態を見ながら簀桁(すげた)を動かし、紙の厚みや繊維の重なりを整えていきます。
そのため完成した紙の表面には、均一な工業紙とは異なる繊維の表情が見られます。八女和紙は色や模様だけでなく、紙の中を走る繊維にも目を向けると、そのつくり方がより具体的に見えます。
楮を主原料とする伝統的な手漉き八女和紙の代表的な工程は、以下の通りです。
1. 楮を準備する
原料となる楮の枝を蒸し、外皮をはぎ取る。皮は乾燥させて保存したあと水に浸してやわらかくし、外側の黒い部分を取り除いて「白皮」と呼ばれる状態へ整える。紙の中に残る不純物を減らすため、原料の段階から状態を見ながらていねいに処理していく。
2. 煮て、塵を取り除く
白皮をアルカリ性の液で煮て、繊維以外の成分を取り除きやすくする。その後、水で洗いながら皮に残った塵や傷んだ部分などを手で取り除く。紙を薄く漉いたとき、紙の中に残った小さな不純物も見えやすくなる。
3. 楮の繊維をほぐす
きれいになった楮を木槌などで叩き、繊維を細かくほぐす。刃物で細かく切るのではなく、繊維の長さをできるだけ保ちながら解きほぐしていくことが伝統的な手漉き紙の特徴の一つ。
4. 「ねり」を加えて紙を漉く
漉き槽の中へ水と楮の繊維を入れ、トロロアオイなどから得られる「ねり」を加える。ねりには水中で繊維がすぐに沈んだり一か所に固まったりするのを抑え、均一に分散させやすくする働きがある。簀桁を使って原料液をすくい、前後左右に動かしながら紙の層をつくる。水温や気温、原料の状態を見ながらねりの量や簀桁の動かし方を調整し、目的とする厚みへ近づけていく。
5. 圧搾して乾燥させる
漉き上がった紙は一枚ずつ重ね、水分を絞る。その後、一枚ずつはがして板などへ貼り付け乾燥させる。乾燥後の紙は、厚みや表面、不純物の有無などを確認して仕上げる。
八女和紙は、障子や提灯などの伝統的な用途だけでなく、現在では照明やインテリアパネルなどにも使われています。昼間は紙そのものの繊維や質感を楽しみ、照明として使えば、紙を通して広がる光の見え方を暮らしの中で楽しむことができます。