

天気のいい昼下がり、淹れたての紅茶をカップに注ぎ、小皿に焼きたてのパンや果物を添える。そんな何気ない食卓でも、器が変わると景色は少し違って見えます。
白い磁器に映る料理の色や、藍色の絵付けがつくる控えめなアクセントは、日々の食事に静かなリズムを添えてくれます。それが、佐賀県有田町とその周辺地域で作られてきた有田焼です。
土を主原料とする陶器とは異なり、陶石を砕いて精製した原料を高温で焼き上げることでつくられる磁器は、白く硬い素地と比較的低い吸水性を持ちます。
過去には、有田で焼かれた磁器が伊万里港から積み出されていたことから「伊万里焼」と呼ばれた時代もありました。「肥前焼」という呼び方が用いられることもあります。現在では、有田町を中心とする産地で作られる磁器を「有田焼」と呼ぶのが一般的です。
有田焼と聞くと、白地に藍色の文様を描いた器を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし実際には、白磁、染付、色絵など多彩な表現が受け継がれており、一つの見た目に限定される工芸ではありません。
現在でも、プレートや鉢、湯のみ、コーヒーカップなど幅広い食器が作られ、和食だけでなく洋食や日常のティータイムにも使われています。
有田焼の歴史は、17世紀初頭に有田で磁器の生産が始まったことにさかのぼります。
産地の発展を支えた大きな要因の一つが、有田町の泉山で磁器の原料となる陶石が見つかったことでした。朝鮮人陶工・李参平(金ヶ江三兵衛)がその発見に関わり、日本で最初の磁器が焼かれたともいわれています。
安定した原料を得られるようになると、有田は継続的に磁器を生産する産地として発展しました。その後、染付や色絵、柿右衛門様式など多様な表現が生まれ、有田焼は国内だけでなく海外にも広く知られるようになります。
17世紀後半には、オランダ東インド会社を通じてヨーロッパへも輸出され、日本の磁器が海外へ広く流通した代表例の一つにもなりました。明治以降には流通や産地表示が整理され、「有田焼」という名称が広く定着していったのです。
現在も有田では多くの窯元や職人が磁器づくりを続けており、伝統的な意匠を受け継ぐ作品だけでなく、現代の暮らしに合わせたシンプルなデザインや新しい表現も生まれています。長い歴史は、過去の文化として残っているだけではなく、今も使われる器として受け継がれています。

有田焼を特徴づけるのは、磁器ならではの白い素地と多彩な絵付け表現です。
主原料である陶石は高温で焼き締まり、硬く緻密な磁器になります。そのため、表面はなめらかで比較的吸水性が低いことが特徴です。陶器とは異なる質感を持ち、日常使いの食器としても広く親しまれています。
有田焼の代表的な表現として知られるのが白磁です。絵付けを施さず、白い素地そのものの美しさを生かした器で、光の当たり方によっては、わずかに青みを帯びて見えるものもあります。
もう一つの代表的な表現が染付です。呉須と呼ばれる藍色の顔料で下絵付けを施し、その上から釉薬をかけて焼き上げることで、透明感のある白磁と深い藍色の文様が調和します。繊細な線や余白の生かし方は、有田焼を象徴する表現の一つです。
さらに、赤や緑、黄などを用いた色絵や、金彩を取り入れた華やかな作品など、多様な様式が受け継がれています。有田焼は「白と藍の器」だけではなく、幅広い意匠を持つ産地であることも大きな特徴です。
有田焼は、原料の準備から成形、絵付け、焼成まで、複数の工程を経て完成します。実際の工程は工房や製品、用いる技法によって異なりますが、主な流れは以下の通りです。
1. 原料を整える
磁器の原料となる陶石を砕き、不純物を取り除きながら成形に適した状態へ整える。原料の粒度や状態は焼き上がった磁器の白さや質感にも関わるため、最初の段階から見極めが必要。
2. 器の形をつくる
整えた原料を使い、ろくろや型などで器を成形する。形だけでなく、厚みや口縁、高台の仕上がりもこの段階で調整される。磁器は乾燥や焼成によって収縮するため、完成時の形を見越してつくることが求められる。
3. 乾燥させ、素焼きをする
成形した生地を十分に乾燥させた後、一度焼成する。急激に乾燥させると変形や割れにつながるため、生地の状態を確認しながら水分を抜いていく。素焼きをすることで生地が扱いやすくなり、その後の絵付けや施釉もしやすくなる。
4. 下絵付けを施す
染付の器では、素焼きした生地に呉須と呼ばれる藍色の顔料で文様を描く。筆の動きだけでなく、線の濃淡、文様の配置、白い部分をどの程度残すかによって器全体の印象が変わる。完成後には釉薬の下に隠れる工程だが、有田焼の表情を左右する重要な段階。
5. 釉薬をかけ、本焼成する
下絵付けを終えた器に透明な釉薬をかけ、高温で焼き上げる。焼成によって素地が硬く焼き締まり、釉薬はなめらかなガラス質の表面へと変化する。染付の文様は釉薬の下に焼き付き、白磁の白と呉須の藍が現れる。
焼き上がりの見た目は原料や釉薬だけでなく、窯の温度や器を置く位置などにも影響を受ける。
6. 上絵付けを施す
色絵の器では、本焼成を終えた磁器の表面に赤や緑、黄などの色を重ね、その後、再び焼成して絵の具を定着させる。金彩などが加えられる場合もあり、用いる色や技法によって工程は異なる。
一つの有田焼は、単独の職人がすべてを手がけるとは限りません。原料、成形、絵付け、焼成など、それぞれの工程を担う職人や工房の仕事が組み合わさり、完成品の形や表情がつくられています。
有田焼には、磁器の白さを生かしたものから、藍色の下絵付け、多色の上絵付け、歴史の中で成立した様式まで、幅広い表現があります。
白磁や染付、色絵は主に仕上げや絵付け技法の違いを示すものです。
一方、柿右衛門様式は、色や構図を含む歴史的な表現様式で、17世紀後半に発展したとされる有田焼を代表する様式の一つです。乳白色の素地に赤を中心とした色絵を施します。器全体を文様で埋めるのではなく、絵付けを置く部分と白地を残す部分の均衡を重視します。
こうした技法や様式を受け継ぐものに加え、装飾を抑えた器や、現在の食生活に合わせた形もつくられています。



有田焼は、美術品や特別な席の器として知られる一方、食事や飲み物のための日常の道具としてもつくられてきました。
白磁、染付、色絵では、それぞれ料理や空間との関係も異なります。決まった使い方に合わせるのではなく、器の形や文様を見ながら生活の中で役割を見つけることで、有田焼の楽しみ方はさらに広がります。