

頭が大きく胴の中ほどがくびれているもの。頭のてっぺんに放射状の髪飾りが描かれたもの。丸い頭と胴をもつ木の人形の形や描かれた模様には、地域で受け継がれてきた特徴と、作り手それぞれの表現があります。
伝統こけしは木を加工して形をつくり、顔や模様などを描く日本の人形。木を回転させながら削る「ろくろ」の技術と深く関わり、頭と胴を中心とした造形が見られます。
こけしを知るうえで、まず押さえたいのが「伝統こけし」と「創作こけし」の違いです。伝統こけしは地域や家系、師弟のつながりのなかで、形や模様、作り方を受け継いできたもの。一方、創作こけしは作家が独自の構想で形や表現を考えたものです。
伝統こけしの背景には、東北地方の木地仕事と温泉地があります。一方で、群馬県など東北以外で発展したこけしもあります。
用いる木は、産地や作り手、作品によって異なります。宮城県の伝統こけしはミズキやイタヤカエデ、ウリハダカエデなどが使われているそう。歴史的には子ども向けの玩具や温泉地のみやげと関わりが深く、現在は鑑賞や展示の対象としても親しまれています。
伝統こけしの成り立ちは、東北の木地師(きじし)の仕事との結びつきが強いとされています。木地師とは、ろくろを使って椀や盆などの丸い木の器をつくる職人のこと。その技術を生かして作られた木の人形が、温泉地で子ども向けの玩具やみやげとして広まったと考えられています。
成立の時期は江戸時代後期頃。形や模様、作り方は家族や師弟の間で受け継がれ、土地ごとの特徴を持つようになりました。こうしたまとまりは「系統」と呼ばれ、現在も土地ごとに異なるこけしの特徴を表す際に説明されています。子どもの玩具として作られてきたこけしは、やがて大人が鑑賞し、集める対象にもなっていきました。
一方、東北とは別に、群馬でもろくろの技術を基盤とするこけしが発展しました。群馬県では明治時代末頃に関口専司が前橋で木製玩具の工場を営み、ろくろの技術を広めたとされています。その技術を受け継いだ人々が、形や絵付けに独自の発想を取り入れ、群馬のこけしを生み出していきました。
1981年には「宮城伝統こけし」が国の伝統的工芸品に指定されました。これは宮城の伝統こけしを対象とする指定で、こけし全体に与えられたものではありません。

こけしは、顔に加えて輪郭、描かれた線、木と表面にも目を向けると、同じ系統の作品でも工人(こけし職人)や個体によって違いがあることが分かります。
まずは輪郭。頭と胴の大きさの比率、胴のどこが細く、どこが太いか。正面と横から見比べると、頭と胴を中心とした構成のなかにも異なる形があることが分かります。伝統こけしでは、こうした輪郭の傾向が地域ごとの特徴とも結びついています。
次に、描かれた線と模様。顔や髪、胴の花模様などを描くことを「描彩」と呼びます。線の置き方や筆致は顔の表情や模様の印象をつくる要素です。菊などの花だけでなく、髪の描き方や頭頂に入る模様の違いにも注目してみましょう。
頭や胴をぐるりと巡る線には、木を回転させながら筆を当てて描く「ろくろ線」があります。ろくろで挽いた丸い形と、回転を利用して描いた線。完成したこけしには、造形と描彩の両方に回転を用いる仕事の跡が見られます。
また、宮城伝統こけしの技法基準にはろうで磨く仕上げが含まれますが、別の工房や作品には塗装を施す例もあり、仕上げを一律には説明できません。
こけしづくりの方法や順序は地域、工房、作品によって異なります。ここでは主な工程と、それぞれの仕事を紹介します。
1. 木を乾かす
材料となる木を乾燥させ、加工に使う準備をする。自然乾燥の期間は6カ月から2年と、木材や産地、工人などによって異なる。
2. 木取りと荒挽き
木を必要な大きさに切る「木取り」を行い、ろくろで大まかな形に削る。回転する木に刃物を当て、材料から頭や胴の輪郭を挽き出していく。
3. 仕上げ挽きと磨き
輪郭を整え表面を磨く。工人は曲線や太さを指と目で確かめながら削っていく。
4. 頭と胴を組む
頭と胴を別々に作る場合は両者を組み合わせる。鳴子こけしは、ろくろの回転と摩擦を利用して頭を胴にはめ込む。この接合構造が、首を回したときに鳴る音と関わっている。宮城のほかの系統には差し込みなどの方法もある。
5. 顔と模様を描く
顔や髪、胴の模様を描く。ろくろ線は木を回転させながら筆を当てて描き、顔や花模様などにはそれぞれの筆使いがある。
6. 仕上げる
ろうで磨く、塗装を施すなどして仕上げる。宮城伝統こけしの基準にはろう磨きが含まれるが、工房や作品によって方法は異なる。
伝統こけしは全部で12の系統があり、地域ごとに受け継がれた模様や技法を見ると系統による違いがよく分かります。ここでは、特に形や描彩の手がかりとなる代表例を紹介します。

鳴子系|宮城県大崎市鳴子温泉
大きな頭と胴の中ほどがくびれた輪郭、菊の模様などが特徴です。頭を胴にはめ込む構造を持ち、首を回すと音が出ることでも知られています。

遠刈田系|宮城県蔵王町遠刈田温泉
比較的大きな頭に、放射状の髪飾りを描くものが見られます。胴には菊などの模様がありますが、髪型や描彩は一様ではありません。

弥治郎系|宮城県白石市弥治郎
頭頂に描かれたろくろ線や、胴の線と配色が見分ける手がかりになります。形や色の組み合わせにもさまざまな表現があります。

作並系|宮城県仙台市作並温泉
細い胴体と、下部が末広がりになっているのが作並系の体の特徴です。胴には「カニ菊」と呼ばれるカニのように見える菊が描かれています。

津軽系|青森県黒石市温湯温泉・大鰐温泉など
オカッパ頭、くびれと裾広がりの胴体、牡丹の花やダルマなどの模様が見られます。津軽系は比較的歴史が浅く、多様な形や描彩が特徴です。
表情や輪郭、模様などの詳細をよく見ていると一体一体の違いが見えてきて、より愛着が湧いてきます。