

お風呂から上がると、まず顔全体をタオルにうずめ、2、3回、深く息を吸う。
それから顔を離し、体を上から下へと拭いていく。
使っているのは、IKEUCHI ORGANICの「オーガニックエアープレミアム バスタオル」。愛媛県今治市で生産される今治タオルだ。
初めて使ったときの深呼吸は、意識的なものだった。新しいタオルの感触や匂いを確かめたかったからだ。それ以来、顔に当てると自然と深呼吸をするようになった。いまでは、ほとんど意識せずに繰り返している。
もともと、お風呂上がりに体を拭く行為は、私にとっては意味を持たない流れ作業の一つだった。髪を乾かすことも同じだった。タオルは体から水分を引き取る道具の一つにすぎず、それ以上の注意を向けたことはほとんどない。
いまも、体を拭くという目的は変わっていない。入浴後にすることが減ったわけでもない。
変わったのは、その時間の長さではなく注意の向き先だった。
顔にタオルを当てると、自然と深呼吸をしている自分がいる。触感に意識を向けていると仕事で固くなった肩の力が抜け、体中がやんわりとほどけていく感覚がある。余計なことを考えず、ふうっと一息つく。
私がIKEUCHI ORGANICの一枚を使うとき、体に起きている小さな反応だ。
拭き方が大きく変わったとは思わない。ただ、以前のタオルでは体を「拭く」という感覚が強かったのが、このタオルを使うと、自然と肌へ軽くパタパタと当てる動きになる。
意識して拭き方を直したわけではないけれど、使い続けるうちに、同じ目的の動作が少しだけ変わっていった。
ほかのバスタオルを使うと、肌触りだけでなく重さの違いにも気づく。以前なら、タオル同士の重さを比べることさえなかっただろう。
このバスタオルを使い始めてから数年が経った。
使い始めたころより手触りはやわらかくなった。新品の張りが保たれているというより、少しくたっとしてガーゼのようなやわらかさに近づいている。
吸水力は買ったばかりの頃と変わらず、お風呂上がりに体に当てるとすうっと水分を吸収してくれる。
洗濯後には、タオルの端を持って縦に数回振ってから干す。そうすると一つひとつのパイルがしっかり立ち、乾いた後のタオルの触り心地がよりふんわりと感じられる。この一枚を使い続けるうちに定着した動作だ。
手触りは変わっても、顔をうずめて深呼吸する習慣は変わらない。

このタオルをつくるIKEUCHI ORGANICは1953年創業、愛媛県今治市に本社を置く今治タオルメーカー。「最大限の安全と最小限の環境負荷」を理念に、オーガニックテキスタイルの企画・製造・販売を行っている。
IKEUCHI ORGANICでは、有機栽培、遺伝子組み換え種子不使用、フェアトレードの3つをオーガニックコットンの条件とし、使う素材の背景にも目を向けたタオルづくりが続けられている。
製織工場で使う電力は、100%風力発電で間接的にまかなわれている。そのためIKEUCHI ORGANICのタオルは、「風で織るタオル」と呼ばれているのだ。
同社が目指しているのは、触り心地の良いタオルをつくることだけではない。ものづくりに伴う環境負荷を最小限に抑えることも、その理念の一つとなっている。

このタオルを使ったことで、暮らし全体が変わったわけではない。ほかの道具の見方まで変わったとも思わない。
変わったのは、入浴後のごく短い時間。
以前は意味をなさなかった動作の途中に、触感へ注意を向け、息をつく瞬間が生まれた。その小さな違いが、このタオルと暮らす意味になっている。
新しいものを買わなくても、手元にある一枚が最初に肌へ触れる瞬間を、少し意識してみる。どんな感触があり、手がどう動いているか。
明日もお風呂から上がったら、顔全体をタオルにうずめる。2、3回、深く息を吸ってから、いつものように体を拭き始める。