

リビングにこけしを飾っている。
特に何かに使うことはないけれど、ときどき、なんの気なしに眺めてみる。愛らしい笑顔を浮かべた顔が部屋に並び、なんだか心が温かくなる。こけしがいると部屋に温もりが広がるような気がして、眺めては心を癒す。
5年ほど前から、東北の温泉地を訪れるたびにこけしを買って帰るようになった。遠刈田温泉、鳴子温泉、温湯温泉。現地のこけし店や工房、みやげ物店で手に入れたものが少しずつリビングに加わってきた。
最初にこけしを認識したのは子どもの頃、祖母の家だった。祖父母の家の棚には、国内や海外のさまざまな旅行先で買ってきた人形や置物が数多く飾られていた。子どもの頃の私は、それらの人形がどこから来たのか興味津々だった。その中に、こけしもいた。
自分で初めて買ったのは、社会人になり雑誌の取材で宮城県を訪れたときだ。みやげ物屋で、缶詰に入った手のひらサイズの小さなこけしを見つけ、その愛らしさに思わず1つ買った。そのとき改めて、こけしというものを明確に意識した。
地域によって特徴の異なる系統があること。目が細いもの、くりっと大きいもの。鼻の大きさ、口角の上がり方、体型、髪型、模様。皆それぞれに特徴があって、愛らしい顔をしている。一気にこけしに魅了され、そこから東北を旅するたびにこけしを買うようになった。
遠刈田のこけし店での出会い
こけしについてもっと知りたいと思うようになったのは、遠刈田温泉の龍平こけしの店を訪れたときのことだ。
店にはさまざまな地域の、系統の異なるこけしがずらりと並んでいた。大きなものから指ほどの小さなものまで、所狭しと並ぶこけし。大きな特徴は、それらがすべて中古の古いこけしだったことだ。
店頭に立っていた佐藤さんは、いろいろなことを教えてくれた。こけしの作り手を工人と呼ぶこと。各地域には著名な工人がいて、毎年こけしのコンテストで技術を競い合っていること。著名な工人のこけしは愛好家に人気が高く、故人となった工人のこけしを集めている愛好家も多いこと。胴の裏に筆で書かれた工人の名前が、誰の作品かを知る手がかりになること。
愛好家は好きな工人のこけしを買っては家で大事に保管し、飾ることもあれば箱にしまって収納棚の奥に置いておくこともあるという。そうしたこけしが市場に出るのは、持ち主が亡くなったときや何かの事情で手放したときで、それを扱うのがこうした中古のこけし店なのだそうだ。だから、古いこけしとの出会いはいつも一期一会だ。
気になるこけしを手に取るたびに、佐藤さんはそのこけしを作った工人のこと、模様や顔つきの特徴、その工人の系統や継承者の作品まで細かく説明してくれた。話を聞いているうちに、すっかりこけしの虜になっていた。この店では遠刈田のこけしをはじめ、3体ほどを買って帰った。

伝統こけしは東北に伝わる木製の人形で、地域や継承のつながりによって形や描かれる模様が異なる。宮城伝統こけしの場合、ろくろで木を挽いて形をつくり顔や胴の模様を描いて仕上げる。こけしの作り手は工人と呼ばれる。同じ系統のこけしでも、工人によって模様には違いがある。
店頭で新品として並ぶこけしにも、作り手の名前を示すものがある。仙台市のこけしのしまぬきが販売する「こけし缶」は、各地の伝統こけしの工人がこの商品のために制作したこけしを缶に詰めたものだ。
工人の作品を評価する全日本こけしコンクールは、今も毎年行われている。公式に発表された受賞者名簿には、部門、作品名、県や系統、作り手の名前が記される。

一体一体を手に取ると、顔つきが皆まったく違うことがわかる。細い目の子、小さな目の子、くりっと大きめの目の子。切れ長の鼻の子もいれば、団子鼻の子もいる。にっこり笑っている子、ニヒルな笑みを浮かべているような子、無表情の子、不安そうな顔をしている子。ひとつとして同じものがなく、見ていて飽きない。
選ぶときの一番の判断材料は、やはり表情だ。その中からなんとなく波長が合うような、ピンときた子を家に連れて帰る。
手に取ると、木の温もりを感じる。表情の温かみもさることながら、天然木の手触りや指に伝わる温もりが、愛着をよりふくらませてくれる。じっくり見極めて選んだからこそ、買ったときからもう愛着が止まらない。
一体の顔の向こうには、工人の名前や系統、作られてからの時間がある。店で聞いた話は、私がリビングに並べているこけしの、そうした背景でもある。
こけしを何かに使うことはない。ただ部屋に飾っておくだけ。それでも、ふと目を向けると、リビングには愛らしい顔が並んでいる。